O君のこころ

私の職場の同僚に、O君という20代半ばの男性がいる。このO君、最低限の仕事のこと以外、他の人と全くコミュニケーションを取らない。あるいは本人としては会話したくても出来ないのかも知れない。ある人は彼は発達障害だと言い、ある人は自閉症だと言う。本当のところは私は知らない。

しかしO君は仕事は完璧にこなす。そしてその仕事ぶり、段取りの取り方、チーム全体の動きを見た上での行動などを見ていると、かなり出来る人なのだと分かる。そして頭もかなり良いのでは、と推察する。

ただ、私にとってこのO君はずっと悩みの種であった。

O君が今どんな気持ちなのか、嬉しいのか悲しいのか怒っているのかそうでないのか、外からは全く分からないのだ。とにかくまるで表情が無い。そしてある時突然キレることもある。だからこちら側としてはとても気を使う。神経がすり減る。もう勘弁して下さい、と私は叫びたかった。彼とシフトが重なっている日は正直とても気が重く憂鬱なことこの上なかった。

そんなO君であったが、仕事終了後のロッカーで、私と二人きりになった時などは、少しずつ、O君の好きなアニメや映画について、ほんの少し、ほんのほんの少しだけ、話すことが出来るようになってはいた。会話といっても喋るのは9割方私だ。O君はその合間に一言二言単語を発するのみ。

そんな昨今だったのだが、先日、仕事終了後のロッカーで、O君が、あるアニメ映画のことをボソッと話した。話したと言っても、映画の題名と、とても感動した、という言葉を発しただけ。

私はその映画に興味を覚え、メルカリで探してみたら安くでDVDが出てたので、購入した。私としては、とにかくO君と話す話題が欲しかった。そして、O君が感動する映画とはどんな映画なのだろう?という興味もあった。つまり、O君の内面を知りたかった。何より、もう、私のO君ストレスは限界に近かった。

昨日メルカリからそのアニメ映画のDVDが届いたので、早速視聴してみた。

内容はSFファンタジーと言うのだろうか、人間の他にもエルフやドワーフなどさまざまな種族や機械生命体が覇権を争っている世界で、リクという主人公の人間の男の子が人類を何とか存続させたいと暗黒の世界で奮闘する中、人間の「こころ」を知りたいと願う機械仕掛けの女の子シュヴィと出会い、二人で組んで、この絶望の世界を終わらせて、新しい、誰も死んだり傷つくことのない世界を作り出そうと命懸けで戦うという、壮大なストーリーだった。派手な戦いの場面や核兵器の何倍もの威力の兵器など、物騒な場面も見られたが、その底に流れているテーマは、人間愛という、ヒューマンストーリーだった。

私は見終わった後、とてもとても清々しい気持ちになり、心の底から喜びがこみ上げてきた。なぜならば、この映画を通して、O君の内面に初めて触れられた気がしたからだ。

O君はこの映画を見て、心底感動した、と確かに言った。ということは、O君は血の通わない、感情の無い、無機質で冷徹な人間などではない。O君は誰とも会話しないけれど、その心の中は喜怒哀楽のある、まったく普通の人たちと変わらない気質の持ち主だったのだ。この映画を媒介としてそのことが私にも伝わってきた。

O君との距離が私の中でぐっと縮まった気がする。そして、O君に対する恐怖心もかなり軽減された気がする。何より、O君も血の通った人間であり、私はただO君の幻影に怯えていただけなのだとわかって、心底ホッとした。

そして、どんな人であっても、その本質は同じ、その在り方は「愛の表現」か「愛を求める呼び声」の二つしかない、という『奇跡講座』の教えが、今回の映画の視聴という機会を通じて身を持って体感された。

今度からはもっとO君と気軽に肩の力を抜いて接することが出来る気がした。

とてもとても嬉しい出来事だった。

(2023年1月 by DTA1973)